オリーブ油が日本のスーパーの棚に並び始めたのは、ワインブームの到来と同時期の1970年代の後半くらいだったと思います。当初は黄色い色をした今でいうピュア・オリーブ油だけでした。でも当時の人はその独特な匂いに馴染めず、なかなか普及しなかった。その後、地中海式ダイエットが話題になると、オリーブ油が注目されるようになります。そしてオリーブ油の最高級品として「エキストラ・バージン・オイル」が入ってくると、その少々エロティックな名前のためか、知名度が上がりスーパーの棚はエキストラ・バージン・オイル(以下EVO)一色になる。筆者も永年愛用していますが、極上品といいながらながら値段がまちまちで、頭をかしげざるを得ないのです。そのことは後で書きます。
食用油の中でオリーブ油の歴史はとびっきり古く、紀元前6千年頃の東地中海沿岸の遺跡にその痕跡を見ることができるといいます。
右の写真のレリーフは、ローマのサン・ピエトロ大聖堂の柱に彫られていたもので、鳩がくわえているのはオリーブの枝です。これは旧約聖書の創世記に描かれているノアの大洪水の物語の中に出てくるもので、洪水の末期にノアが方舟(はこぶね)から放った鳩がオリーブの枝をくわえて戻ってくる。これを見てノアは水が引き始めたことを知るというお話で、これが平和の象徴とされ、日本の煙草のピースのデザインにもなっています。ちなみにこの物語の成立は今から3千年以上前の事だそうです。
下ってギリシャ時代になるとオリーブ油は食糧としてはもとより、化粧品や薬品、灯油としても生活に広く使われるようになります。そしてそのオリーブの木を、西ヨーロッパの地中海沿岸に広めたのはギリシャ人や航海の民といわれたフェニキア人だそうです。オリーブの木は長生きで千年生きるとされていますが、筆者がイタリアのプーリア州で出会った老木は千年に近いというふれこみでしたが、誰も正確な年齢は解らないとの事。
オリーブは油をとるばかりではなく、実を塩漬けにしたものもありますね。以前、オリーブ油発祥の地に近い小アジア(現トルコ)を旅した時、朝食に白いチーズと5種類ものオリーブのピクルスが出たのにはでびっくりでした。現在オリーブ油の産出量の1位はスペインで、国のいたるところに広大なオリーブ畑があります。
オリーブ油が他の食用油と違う所は「果実」から油を採ることです。ほかの油脂は種実、つまりタネから採ります。日本で使われている主な食用油は菜種、綿実、大豆などの種子から採ったもの。従って果実から採るオリーブ油には果実の風味があり、微量成分も豊富に含まれているのです。オリーブ油の採り方は、原則的には古代からあまり変わっていないそうです。適度に熟したオリーブの実を種ごとペースト状にすりつぶし、それを静置しておくと、表面に緑色の油が浮いてきます。それを漉し取ったのが、一番搾り、いわゆるバージン・オイルなんだそうです。加熱や科学的処理は一切行わない。
そして、そのバージン・オイルには4段階があって、その最上品がエキストラ・バージン・オイルで、それを名乗るには、国際オリーブ協会(IOC)やEUの規定では品質、風味が極上で、更に酸度(脂肪酸の割合)が0.8%以下のもの、という厳しい規定がある。なのに、スーパーには1ℓが千円以下のEVOが大量に出回っているのはなぜでしょう。
本物のEVOを見分けるには、値段を見ることも有効かも知れませんが、最近ではチーズなどと同様に、EUの審査機関が審査し認証を与えるP.D.O.(原産地名称保護)やP.G.I.(地理的表示保護)の認証を受け、認証マークを付けたオリーブ油も見かけるようになりました。
写真の右の瓶にある赤いマークが最も規定が厳しいP.D.O.で、左は前者より規定が緩やかなP.G.I.取得のマークです。とりあえず、このマークがあれば安心ですが、しかし、このマークの取得は任意ですから、マークの無い高級品もたくさんあります。300mℓ未満の細長い瓶に入っていて千円超ならとりあえず本物だと私は思っています。