ふわっとしていてほのかに甘い、リコッタという「チーズ?」を知ってますか。なぜ「?」かといえば、リコッタ、これは果たしてチーズと言えるのかという議論がヨーロッパであったからです。そのわけは後で書きます。リコッタは日本でも知る人も多くなったようですが、なかなか手に入りにくいし、その実態を知る人は少ないように思いますが、どうでしょうか。
リコッタ(ricotta)はイタリア語ですね。フランス語ではルキュイット(recuite)などと呼ぶようですが、あまり聞いたことはありません。でも両方とも「二度煮した」という意味がありますが、このチーズは圧倒的にイタリアで多く作られているのです。
普通のチーズとリコッタはどこが違うかといえば、単純にいうと原料が違うのです。すべてのチーズはミルクをレンネット(凝乳酵素)で凝固させて作りますが、リコッタは基本的にはチーズを作る時に出る大量の水分(ホエー)が原料なのです。ミルクにはレンネットでは固まらない蛋白質が含まれていて、これを製造現場では「ホエー蛋白」と呼んでいますが、この蛋白質は加熱することで凝固するのです。つまりチーズの副産物であるホエーに僅かに残るたんぱく質を回収して作るのがリコッタなのです。従ってリコッタはチーズなのかという議論が起こるわけです。しかし現在ではめでたくチーズの仲間に入れられ、PDO(原産地名称保護)の指定を受けているものも複数あります。
では、この別名ホエー・チーズといわれるものがイタリアに多く、フランスには少ないのはなぜか。不思議でしょう。それは、動物のミルクによってホエー蛋白の量に差があるからです。例えば牛乳のホエー蛋白は0.2~0.3%とほんのわずかです。それに対し羊乳は1.1~1.3%と牛乳の3倍以上ある。水牛乳も0.7~0.9%あります。(泉圭一郎著 「チーズ・その伝統と背景」より)。明らかに羊乳のホエーで作る方がずっと効率がいいですね。だから羊乳チーズが圧倒的に多いイタリアでリコッタが沢山作られているというわけです。フランスで作られるのは僅かで、羊乳チーズが多いコルシカ島で作られるブロッチューと呼ぶものが、まさにリコッタのフランス版というもので、唯一AOPの指定を受けています。
作り方はこうです。チーズを取った後に残った大量のホエーを釜に入れて沸騰寸前(93~95℃)まで加熱するとホエーに残っている蛋白質が固まって、カキタマのようにモロモロとした感じで表面に浮かんできます。それを穴あきお玉ですくってザルにとり水分を切れば出来上がりです。普通リコッタは出来立てのフレッシュなうちに食べます。イタリアの朝市などのチーズ売り場をのぞくと、ザルの網目がくっきりとついたリコッタが売られています。一度南イタリアで水牛のモッツアレラのホエーから作った出来立てのリコッタを試食したことがありますが、これはとてつもなく美味しいものでした。
大手の乳業会社のホームページには、リコッタはホエーを煮詰めて作るとありますが、ホエーを煮詰めて作るのは全く別物です。大きなチーズ工場などでは大量のホエーを、真空釜で煮詰め、乾燥させホエー粉などを作ります。これは、粉乳やお菓子の材料などにも使われています。
ネットなどではホエーは高タンパク低脂肪の栄養の塊などと書かれていますが、前述の通り蛋白質は多くて1%前後、あとは乳糖と微量成分で残りの大部分は水分です。でもホエーには大量の乳酸菌が含まれています。数千年もチーズを作ってきたヨーロッパでは、古くからホエーを豚の健康ドリンク?として利用してきました。イタリアのパルマの生ハムを作る豚にはパルミジャーノのホエーを与えなくてはいけないという規定を設けています。豚が健康に育ち肉がおいしくなるからだといいます。