チーズの形と個性をつくる型入れの仕事
チーズとは何かと問われたら何と答えますか。
ちょっと禅問答めいていますが、簡単にいうと、チーズは乳(ミルク)を酸や酵素で凝固させ、そこから水分の一部を除いたもの、あるいはそれを熟成したものとされています。水分を多く取れば硬いチーズになり、少なければ柔らかいチーズになるのですが、そのチーズの水分の量を決めると同時に、その形と大きさを決める最初の重要な仕事が、この凝固したミルク(カードという)の型入れ作業なのです。といっても一般の人達はこの作業をなかなか見ることはできません。そこでその一部を写真でお見せしましょう。
固まったミルクを型に入れるというと、いかにも単純作業のように思われますが、チーズの品質や形を一定にするためには、それなりに技術が問われる重要な作業なのです。現在世界中にはおそらく数千種チーズが存在すると思われますが、チーズ作りの現場ではそれぞれ独特な道具を使ってこの作業を行っていますが、この道具にもチーズの個性を作るための知恵が秘められているのです。
まずは柔らかい小型のチーズの型入れを見てみましょう。写真①は山羊乳チーズの型入れです。この場合は固まったミルクをルーシュという、小さなお玉の様な道具でカードを掬い取り、側面に穴の開いたカップ状のモールドに入れています。単純作業のように見えるけど、バケツで凝固させたミルクはどんどん硬くなっていく。これを手早く複数のカップに均一に満たさなければないのです。しかも、でき上がったチーズが同じ重量で品質が均一になるようにしなければならないという、熟練を要する作業なのです。
写真②はソフト系の中でもやや大きめのチーズの型入れです。この場合は側面に穴の開いた底のないモールドをスノコにのせ、大きなお玉でカードを均一に入れていきます。そして型入れ後に一定の時間ごとにひっくり返し水分(ホエイ)を抜くと同時にチーズの形を作っていきます。しっかりと形ができ上ったら加塩し熟成室に入ります。
写真③はソフト系の白カビチーズとしては例外的に大きなブリ(Brie)の型入れです。ペル・ア・ブリと呼ぶ、小さな孔があいたステンレス製の皿に取っ手をつけたような道具で、バケツで凝固させたカードを薄くそぎ取りモールドに重ねるように入れていきます。水分が切れると薄い層になったチーズの組織が現れる。このチーズの歴史は古く、産地がパリに近かったため、珍しく王侯貴族の御用達になったチーズです。かつてフランスではチーズは貧者の食べ物とされ宮廷の食卓にチーズが載ることはありませんでした。
写真④は山のチーズと呼ばれる大型のセミハード系のチーズの型入れです。このタイプのチーズは釜の中で凝固させたミルクを、ピアノ線を張ったナイフで細かくカットし釜の温度を上げていきます。するとカードは水分を放出し、硬くしまって大きな塊になります。それを布で掬い上げ、モールドに詰めプレスして形を作るのです。
写真⑤はフランス北部で作られるウオッシュ系チーズの型入れ作業ですが、このような大雑把というか豪快な型入れは初めて見ました。ここは中規模の近代工場でしたが、新しいやり方なのか、それとも手間のかかる型入れに神経を使う意味がないというのでしょうか。隣ではポンプでカードを型に流し込んでいました。チーズっていつ見ても面白い!
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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